研究インタビューとは
研究インタビューは、看護、教育、社会福祉、心理学、言語研究など、質的研究のさまざまな分野で用いられています。対象者自身の言葉から、数値だけでは把握しにくい経験や、その背景にある文脈を捉えられる点が特徴です。
分析対象になるのは、「何を語ったか」だけとは限りません。研究目的によっては、どのように語ったかという点にも注目し、言いよどみ、沈黙、語調、発話の順序、相づちなどを扱うことがあります。例えば、語られた内容をテーマやカテゴリーに整理する分析、言葉の選び方や語りの構成に注目する談話分析、発話の順番や沈黙などの相互行為を捉える会話分析では、必要な記録内容が異なります。
そのため、研究インタビューの文字起こしは、単に音声を文章へ置き換える作業ではありません。研究目的と分析方法に応じて、原稿にどの情報を残すかを決める工程でもあります。
インタビュー調査の種類
研究インタビューの種類は、大きく次の二つの軸で整理すると分かりやすくなります。
- 質問の決め方による分類(構造化/半構造化/非構造化)
- 人数・実施形式による分類(デプス/グループ/FGI)
この二つは並列ではなく、組み合わせて用いられます。例えば「半構造化形式のデプスインタビュー」「半構造化形式のFGI」といった形です。
質問の決め方による分類
構造化インタビュー
質問内容と順番をあらかじめ統一し、すべての対象者に同じ形で尋ねる方法です。対象者間の回答を比較しやすく、複数名のデータを横断的に扱う研究に適しています。
文字起こしでは、どの質問に対する回答かという対応関係を明確に保つことが重要です。回答者間で表記が揺れると比較が難しくなるため、表記ルールの統一も求められます。
半構造化インタビュー
インタビューガイドで質問項目を用意しつつ、回答に応じて順番を変えたり、追加の質問をしたりする方法です。質的研究、看護研究、医療・福祉・教育研究などで広く用いられています。
文字起こしでは、ガイドどおりに進まなかった部分こそ重要になります。追加質問がどこで入ったか、話題がどのように移り変わったか、質問者と回答者のどちらの発言かが分かる原稿が必要です。
非構造化インタビュー
固定した質問を最小限にし、対象者の自由な語りを重視する方法です。ナラティブ研究やライフヒストリー研究と関係が深い形式です。
語りの流れ自体が分析対象になるため、沈黙や言いよどみをどこまで原稿に残すかを事前に決めておく必要があります。読みやすさを優先して整えてしまうと、分析に必要な情報が失われることがあります。
人数・実施形式による分類
デプスインタビュー
原則として1対1で、特定のテーマを深く掘り下げる形式です。半構造化形式で行われることも多くあります。
感情の動き、沈黙、相づち、質問者の働きかけをどう扱うかが、原稿の設計上のポイントになります。特に、質問者の相づちや問い直しが回答に影響している場合、それらを削除すると文脈が読めなくなります。
グループインタビュー
複数の参加者から同時に意見を聞く形式です。個々の回答だけでなく、参加者同士の相互作用も生じます。
文字起こしでは、話者分離と発話の重なりが最大の課題です。誰の発言かを正確に区別できる収録・記録の設計が欠かせません。
フォーカスグループインタビュー(FGI)
特定のテーマについて、参加者同士の意見交換を意図的に促す形式で、グループインタビューの一形式です。
賛同、反論、笑い、同時発話といった反応そのものが分析対象になり得るため、モデレーターと参加者の区別を明確にした原稿が必要になります。
研究インタビューの種類と文字起こし方法の違い
| 種類・形式 | 主な特徴 | 文字起こしで重視する点 |
|---|---|---|
| 構造化インタビュー | 同じ質問を、原則として同じ順序で行う | 質問番号と回答の対応、回答者間で統一された表記 |
| 半構造化インタビュー | 質問項目を軸に、回答に応じて深掘りする | 追加質問、脱線、話題の移行、質問者と回答者の区別 |
| 非構造化インタビュー | 自由な語りと、その展開を重視する | 語りの流れ、間、言いよどみ、語調をどこまで残すか |
| デプスインタビュー | 1対1で経験や意識を深く聞く | 沈黙、感情の変化、相づち、問い直しの扱い |
| グループインタビュー | 複数人の発言と相互作用を記録する | 話者分離、同時発話、発言の重なり、賛同・反論の流れ |
| FGI | 特定テーマについて集団で意見交換する | モデレーターと参加者の区別、相互作用、非言語反応 |
ただし、この表は目安です。
同じ半構造化インタビューでも、発言内容だけを分析する場合と、沈黙や相づちを含む相互作用を分析する場合では、必要な文字起こし仕様は異なります。
決め手になるのはインタビューの形式そのものではなく、そのデータを何の分析に使うかです。
研究インタビューの逐語録の粒度の決め方
ケバ取り・整文で読みやすく整理する場合
- 「えー」「あのー」などの不要なフィラーを除く
- 明らかな言い直しや重複を整理する
- 質的データの整理、内容分析、事例記述などに利用する
内容分析やコーディングを中心とする研究では、読みやすく整えた原稿のほうが扱いやすくなります。
談話分析・会話分析のために発話を詳しく記録する場合
談話分析では、発言内容だけでなく、言葉の選び方、語りの構成、特定の表現が用いられた文脈などを検討することがあります。
一方会話分析では、発話の順番、沈黙、相づち、言い直し、発話の重なりなど、参加者同士の相互行為を詳しく扱います。
こうした分析では、研究目的に応じて次のような情報を記録します。
- フィラー、言いよどみ、ケバなどの基本情報
- 沈黙、間、相づち、笑い声、発話の重なり、声の強弱などの非言語情報
- 視線の動き、身振りなどのノンバーバル情報
「ケバ取り」「素起こし」「整文」という区分は、一般論として理解するよりも、研究目的から逆算して選ぶほうが実務的です。読みやすさを優先すべき研究と、読みにくくても発話をそのまま残すべき研究があります。
研究インタビューの文字起こし前に確認したい仕様
録音後は変更できない項目もあるため、調査設計の段階で次の点を決めておくと、後工程がスムーズになります。
話者の表記方法
実名、話者A・B、研究参加者番号、属性を含むラベル(例:看護師A・患者B)など。倫理審査の条件とも関係します。
匿名化・仮名加工の範囲
人名、施設名、地名、所属、固有の出来事などをどこまで置き換えるか。あわせて、対応表を誰がどのように管理するかも決めておきます。
沈黙や非言語情報の記録方法
記録する場合、どの記号を用い、何秒以上を沈黙として扱うかを統一します。
タイムスタンプの有無と間隔
音声に戻って確認する必要がある研究では、必須に近い項目です。
分析ソフトに合わせた納品形式
Word・Excel・CSVのほか、NVivo・MAXQDAで扱いやすい形式、ELANのTier構成やラベル設計、指定の転記規則など。
録音前に準備すると文字起こしの精度が上がるもの
- インタビューガイド、質問項目
- 専門用語や固有名詞をまとめた資料
- 話者一覧(グループインタビューでは座席表や発言順の記録も有効)
- 希望する匿名化ルール
- 原稿サンプルまたは表記仕様
- 倫理審査で定めたデータ管理条件
特に専門用語と固有名詞の一覧は、原稿品質に直結します。分野特有の略語や機関名は音声だけでは判断が難しく、事前に共有いただけると精度が大きく変わります。
研究インタビューの文字起こしは内製・AI・業者のどれを選ぶべきか
| 方法 | 向いているケース | 注意点 |
|---|---|---|
| 自分で文字起こし | 件数が少なく、繰り返し聴くこと自体が分析過程になる | 1時間の音声で数時間以上を要する |
| AI文字起こし | 音質がよく、機密性や精度の要件が高くない | 誤認識の確認と修正が必要。学内ルール上、機微情報を外部サービスへ入力できない場合がある |
| 専門業者へ依頼 | 長時間・多数の音源、専門用語が多い、厳格な匿名化やセキュリティが必要 | 仕様とデータ管理体制を事前に確認する必要がある |
音質が良く、内容の機密性が高くないインタビューであれば、AI文字起こしで十分なケースもあります。
判断が分かれるのは、個人情報や未公表の研究データを含む音源、複数話者が重なる音源、沈黙や相づちまで記録が必要な研究です。
この場合は、精度だけでなくデータの取り扱い方針の面から、人手による対応を検討する価値があります。
研究インタビューの文字起こしを外注する際の確認事項
- 研究目的に合う起こし方を相談できるか
- 分野の専門用語に対応できるか
- 匿名化・仮名加工に対応できるか
- NDAや倫理審査関連資料に対応できるか
- 再委託の有無と作業者の管理方針
- データの保管方法と削除条件
- 科研費や大学指定書式に対応できるか
- 分析ソフトに合わせた形式で納品できるか
東京反訳では、これまで6,000名以上の大学研究者さまからご依頼をいただいており、研究方法や分析目的に合わせた仕様設計、匿名化、ELANなど分析用データの作成、倫理審査・科研費関連書類への対応を行っています。
仕様が固まっていない段階でのご相談も承ります。
公開日:2026.9.10


