「パワハラを受けて困っています。」
こんな連絡を受けたら人事担当者はどのような対応を取ったらよいのでしょうか?パワハラに関する記事は沢山あります。しかしパワハラ対応については法律の「義務」の解説ばかりで、人事担当者としては具体的にどんな対応をとったらよいのかわからない、という声をよく聴きます。そこで今回は、パワハラ発生かも!?という事態が起きた場合の対応について、法律上の議論でなく実務上の対応という視点からご案内いたします。
まずは事実関係の正確な確認が必要です。
ヒアリングについては、被害者、第三者、行為者、の順で行います。第三者と行為者へのヒアリングについては必ず被害者の同意をとってから行います。
具体的なヒアリング方法については下記をご覧ください。
「会社のパワハラ対応~事実と認識の違いを引き出す面談マニュアル1~」
「会社のパワハラ対応~事実と認識の違いを引き出す面談マニュアル2~」
ハラスメントとしては厚生労働省より6つの類型が示されています。(詳細は厚生労働省サイトを参照)
今回の出来事が、それらのどれに該当しそうかを確認します。例えば、上司の叱責でメンタルヘルス不調を発した、という出来事だったとしましょう。そこで暴力行為があれば「身体的な攻撃」に該当するかもしれませんし、上司の「言葉」の影響が大きいようでしたら「精神的な攻撃」に該当するかもしれませんし、激しい言葉に加えて、「過大なノルマ」があったかもしれません。今後のプロセスに向けて、これらのどれに該当しそうかを整理しておくということです。これによって「思い込み」による判断を避け、論理的に説明ができるようにするためです。
その言動が起きた行為者の状態として、以下の4パターンのどれに当てはまるかを分析検討します。どれに該当するかによって取りうる対応が変わる可能性があるからです。
例えば部下のミスに対して大勢の社員の前で「バカやろう!」と叱責した、という例について考えてみましょう。
本人のためによかれと思って指導を行っているつもり、というパターンです。パワハラについては行為者本人が「気づいていない」というのはよくあることです。このような場合は、正しい知識を得ることによって反省し、改善されることがあります。他の社員の前で叱責することが、本人にとって屈辱感を与え、「精神的な攻撃」に該当する可能性があるということをまずは指導することとなります。
パワハラかも?と思っても、他に指導方法を知らない、というパターンです。このような場合は、別の指導方法を学ぶ、一緒に代替行動を考える、という対応が必要です。特に、自分がこれまで怒鳴る、叱る、というような指導しかされてこなかったというケースにおいては、会社の中に他にも同じような人がいることが予測されますので、会社全体でのマネジメント教育や、グループワークなどで具体例を扱っての研修などを検討するとよいでしょう。
パワハラに該当する可能性があることも部下の指導方法も知っているけれども、「そんなことやってられない」「怒鳴った方が手っ取り早く効果がある」と思っているような場合です。このような場合は上司自身も困っている、業務過多などのストレスを抱えていて余裕がない、ということも想定され、上司自身のケアも視野に入れて対応を考える必要があります。
ここに当てはまるケースは多くはありませんが、もし該当する場合はそのまま放置していると組織に重大な影響を与える可能性があります。懲戒や配置転換等、積極的な対応を検討することが必要になります。
問題行動のパターン分析の次に、懲戒処分の必要性を検討します。懲戒処分が認められるには次の4つを満たしている必要があります。
これらのうち、AとDについてはパワハラ防止対策として問題が発生する「前」に準備していたものがここで役に立つということになります。就業規則は、問題が起きてからの整備では間に合いませんし、手続の相当性として、パワハラ判定のフローが定められていることが有用になります。ですから事前準備が大切ということになります。 パワハラ防止対策の事前準備については、「パワハラ防止、会社の対応フロー【7つの具体策】 予防(事前におこなうべきこと)」をご覧ください。
問題発生後の判断として難しいのはB、Cです。これを判断するためには、まずは「適正な業務指導」の範囲を超えていたかどうか、が一つの判断基準となるでしょう。適正な業務指導範囲内であれば懲戒には該当せず、指導方法に対する注意や教育にとどまることとなります。
もしも「適性な業務指導」の範囲を超えていたと判断される場合は、次に懲戒処分を行うかどうか、懲戒処分のレベルをどのようにするか、を検討することとなります。
適性な業務指導とされる範囲や懲戒処分のレベルを検討する基準の一つとしては過去の裁判例(「裁判例を見てみよう」厚生労働省HPより)などがあげられます。しかしパワハラについては他社事例や過去の裁判例をそのまま自社のケースに当てはめても妥当なものになるとは限りません。ですから、懲戒処分を行う際は、弁護士、社会保険労務士などと一緒に慎重に検討することが必要となります。
職場環境への影響度合いによっては、配置転換を検討することになります。被害者にとっては、顔を見る、声を聴くだけでもつらい、ということもあります。被害者、行為者、職場を守るために、配置転換が有用な場合もあります。被害者のメンタルヘルスケアが必要な場合は、適切な専門家につなぐことも考えられます。
パワハラの対応では以下の4点をワンセットで行うことが大切です。
犯しやすい間違いは「パワハラかどうかの判定」と「懲戒」を行うことが目的になってしまうというものです。大切なのは「パワハラのない職場環境をつくること」です。常にこれを忘れないようにしてください。懲戒処分の検討の前に問題行動のパターン分析をしていただきたいのは、「懲戒ありき」の議論の前に、まずは行為者がおかれている状況や行動の意図と目的を理解するためでもあります。これらを理解することが、再発防止のための対応を検討する土台になります。
パワハラの判定は非常に難しいものです。人によって認識が異なることもあります。その場合に「誰の話が正しいか」を会社の調査のみで判断するのは一般的に困難です。もし本気で白黒つけたいのであれば、裁判所に訴えるしかないでしょう。ですから、会社の実務対応としては「言い分が食い違ったままで」「白黒をつけないまま関係者のフォローを行う」ということが必要になる場合もあります。
対応に迷ったり議論が進まなかったりするときは、今検討している対応が「パワハラを起こさない職場づくりに資する対応なのかかどうか」と点検しながら進めてみてください。